親や配偶者など大切なご家族が亡くなると、悲しみの中でさまざまな手続きを進めなければなりません。
しかし、相続は人生で何度も経験するものではないため、「何から始めればいいのか分からない」「誰に相談すればいいのか分からない」と悩まれる方は少なくありません。
実際に相続案件を数多く取り扱っていると、「親が亡くなったけれど、最初に何をすればいいですか?」「銀行や役所へ行けばいいのでしょうか?」というご相談を非常に多くいただきます。
相続手続きには3か月以内に判断しなければならないものや、10か月以内に申告が必要なものなど、期限が設けられている手続きがあります。また、順番を間違えてしまうと、相続放棄ができなくなったり、遺産分割協議をやり直さなければならなくなったりするケースもあります。
そのため、相続では一つひとつの手続きを正しい順番で進めることが非常に重要です。
本記事では、相続を専門的に取り扱う弁護士が、相続手続きを初めて経験する方にも分かりやすいよう、「何から始めればよいのか」を順番に解説します。
まずは全体の流れを把握し、ご自身が今どの段階にいるのかを確認しながら読み進めていただければと思います。
動画で詳しく解説しています
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動画では、相続が発生した後に「まず何をすればよいのか」「どのような順番で手続きを進めればよいのか」について、実際の相続相談でよくあるケースをもとに、分かりやすく解説しています。
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相続手続きは何から始めればいい?全体の流れを確認しよう

相続手続きは、一般的に次の流れで進みます。
- 遺言書を探す
- 相続人を調査する
- 遺産(相続財産)を調査する
- 相続するか放棄するかを決める
- 遺産分割協議を行う
- 相続税の申告を行う
- 相続登記や名義変更などの各種手続きを行う
相続人の人数や遺産の内容によって手続きの順番が前後することもありますが、基本的にはこの流れを押さえておけば問題ありません。
「まず銀行へ行けばいい」「とりあえず不動産の名義変更をしよう」と考える方もいらっしゃいますが、実際にはその前に確認しなければならない事項が数多くあります。
特に重要なのは、「遺言書があるか」「相続人は誰なのか」「どのような財産があるのか」という3点です。
これらを確認しないまま手続きを進めてしまうと、後から新たな相続人や遺言書が見つかり、手続きをやり直さなければならないケースもあります。
まずは全体像を把握し、一つずつ順番に進めていきましょう。
①遺言書を探す
相続では遺言書の内容が原則として優先される
相続が発生したら、最初に確認すべきなのが遺言書の有無です。
遺言書がある場合は、原則としてその内容に従って相続手続きを進めます。
例えば、「自宅は長男へ相続させる」「預貯金は長女へ相続させる」といった内容が記載されていれば、その内容が基本となります。
一方で、遺言書がない場合には、相続人全員で話し合いを行い、誰がどの財産を取得するのかを決める「遺産分割協議」が必要になります。
つまり、遺言書があるかどうかによって、その後の手続きが大きく変わるため、相続が始まったら最初に遺言書を確認することが重要です。
なお、遺言書が作成されていても、遺言者が作成当時に認知症などで意思能力を欠いていた場合には、遺言書が無効となる可能性があります。
また、相続人全員が合意している場合には、遺言書とは異なる内容で遺産分割協議を行えるケースもありますが、まずは遺言書の内容を確認することが大前提となります。
遺言書を確認しないまま遺産分割協議を進めてしまい、その後に遺言書が見つかった場合には、協議をやり直さなければならない可能性もあります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、相続手続きを始める際は、まず遺言書の有無を確認しましょう。
遺言書には主に2つの種類がある

一般的に利用される遺言書は、「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類です。それぞれ特徴が異なるため、違いを理解しておきましょう。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成する遺言書です。遺言者が内容を口頭で伝え、公証人が法律に従って文章を作成します。作成時には証人2名以上の立ち会いが必要です。
公証役場で原本が保管されるため、紛失や改ざんのリスクが低く、現在もっとも安全性が高い遺言書といわれています。
また、公正証書遺言は「遺言検索システム」に登録されているため、相続人などの一定の方であれば、公証役場を通じて存在を確認することができます。
実際の相続相談でも、「遺言は残していないと思っていたが、検索してみたら公正証書遺言が見つかった」というケースは決して珍しくありません。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、遺言者本人が作成する遺言書です。全文を自筆で記載し、日付・氏名を書いたうえで押印することが原則とされており、公証役場へ行かなくても作成できるため、現在でも多く利用されています。
一方で、自宅などで保管されることが多いため、紛失や改ざん、破棄といったリスクがある点には注意が必要です。相続人が遺言書の存在を知らないまま相続手続きを進めてしまうケースや、逆に遺言書の存在を知っている相続人が他の相続人へ伝えないといったトラブルも、残念ながら実際に起こっています。
このようなリスクを軽減するため、令和2年(2020年)からは「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。
自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書保管制度とは、法務局が自筆証書遺言を保管する制度です。
従来は、自筆証書遺言を自宅で保管する方がほとんどでした。しかし、自宅保管の場合には、紛失してしまったり、火災や災害で失われたりするリスクがあります。また、一部の相続人によって隠されたり、破棄されたりする可能性も否定できません。
保管制度を利用すれば、法務局が遺言書を適切に保管するため、このようなリスクを大きく減らすことができます。
さらに、この制度を利用して保管された自筆証書遺言は、家庭裁判所で行う「検認」が不要となります。そのため、相続開始後の手続きをスムーズに進められるというメリットもあります。
保管制度を利用していない場合はどこを探せばよい?
保管制度を利用していない場合、自筆証書遺言は被相続人が自ら保管しているケースがほとんどです。
具体的には、次のような場所に保管されていることが多くあります。
- タンスや机の引き出し
- 金庫
- 仏壇
- 銀行の貸金庫
- 同居している家族や信頼できる親族に預けている
「遺言書はないだろう」と思い込まず、一度はこれらの場所を確認してみることをおすすめします。
実際の相続相談でも、「遺言書は作っていないと思っていたが、自宅の金庫から見つかった」「貸金庫を確認したら保管されていた」というケースは少なくありません。
自筆証書遺言が見つかったら勝手に手続きを進めない
自筆証書遺言が見つかった場合には、すぐに内容に従って手続きを進めればよいというわけではありません。
法務局の保管制度を利用していない自筆証書遺言については、原則として家庭裁判所で検認という手続きが必要になります。
検認とは、遺言書の状態や内容を家庭裁判所で確認し、後日の偽造や変造を防止するための手続きです。
なお、検認は「遺言書が有効か無効か」を判断する手続きではありません。あくまで遺言書の現状を確認・保存するための手続きであり、遺言書の効力そのものを決定するものではない点は理解しておきましょう。
また、自筆証書遺言を発見した場合でも、内容を書き換えたり破棄したりすることは絶対に避けてください。
遺言書を隠したり改ざんすると「相続欠格」になる可能性がある
遺言書を故意に隠したり、破棄したり、内容を書き換えたりした場合には、「相続欠格」に該当する可能性があります。
相続欠格とは、一定の重大な不正行為を行った相続人が、法律上当然に相続人としての資格を失う制度です。
例えば、他の相続人に見つからないよう遺言書を隠したり、自分に有利な内容へ書き換えたりした場合には、相続権を失う可能性があります。
相続人同士で感情的な対立がある場合でも、遺言書の取り扱いには十分注意し、発見した際には速やかに他の相続人や専門家へ相談することが大切です。
遺言書の存在を確認することは、相続手続き全体の出発点です。遺言書があるかどうかによって、その後の手続きや必要書類が大きく変わるため、最初の段階でしっかり確認しておきましょう。
②相続人を調査する
遺言書の有無を確認したら、次に行うのが相続人の調査です。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行わなければなりません。そのため、「誰が相続人なのか」を正確に確定することが非常に重要になります。
相続人が一人でも漏れた状態で遺産分割協議を行ってしまうと、その協議は原則として無効になる可能性があります。
そのため、「家族構成は分かっているから大丈夫」と思い込まず、戸籍を取得して法律上の相続人を確認することが欠かせません。
相続人はどのように決まる?

相続人は民法によって定められており、基本的には配偶者と一定順位の血族が相続人になります。
| 順位 | 相続人 | 相続できる条件 |
|---|---|---|
| 常に相続人 | 配偶者 | 配偶者は常に相続人となります。 |
| 第1順位 | 子ども | 子どもがいる場合は最優先となります。 |
| 第2順位 | 父母・祖父母などの直系尊属 | 子どもがいない場合に相続人となります。 |
| 第3順位 | 兄弟姉妹 | 子ども・直系尊属がいない場合に相続人となります。 |
ポイントは、血族相続人は順位が最も高い人だけが相続人になるということです。
例えば子どもがいる場合には、父母や兄弟姉妹は相続人にはなりません。
一方、子どもがいない場合には父母などの直系尊属が相続人となり、さらに直系尊属もいない場合には兄弟姉妹が相続人となります。
この順位を誤って理解している方は意外と多いため、「兄弟も相続人になると思っていた」「親も相続できると思っていた」という誤解から、手続きをやり直すケースもあります。
戸籍を集めて相続人を確定する
法律上の相続人を確定するためには、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて取得する必要があります。
現在の戸籍だけでは、過去の婚姻や離婚、養子縁組、認知した子どもの有無などが分からないためです。
また、相続人となるはずだった方がすでに亡くなっている場合には、その方の戸籍も取得し、さらにその相続人(代襲相続人など)を調査しなければなりません。
一見すると家族関係は単純に思えても、戸籍を調べて初めて相続関係が判明するケースは珍しくありません。
隠し子や異母兄弟が判明するケースもある
相続人調査を軽視してしまうと、大きなトラブルにつながる可能性があります。
例えば、戸籍を調査した結果、被相続人に認知した子ども(いわゆる隠し子)がいたことが判明したり、異母兄弟・異父兄弟が相続人だったことが分かったりするケースがあります。
こうした相続人を除外したまま遺産分割協議を行うと、その協議は原則として無効となります。
後になって相続人が判明すると、すべての協議をやり直さなければならず、相続人同士の関係が悪化する原因にもなります。
相続人調査は、「知っている家族だけ」で進めるのではなく、必ず戸籍に基づいて確認することが大切です。
戸籍は広域交付制度で取得しやすくなった
令和6年(2024年)からは、戸籍の広域交付制度が始まりました。
これにより、本籍地が遠方にある場合でも、最寄りの市区町村役場で全国の戸籍謄本を取得できるようになりました。
以前は、本籍地ごとに郵送請求や窓口請求を行う必要がありましたが、現在では相続人本人が請求する場合など一定の条件を満たせば、一か所の役所でまとめて取得できるケースが増えています。
ただし、広域交付制度は本人が窓口で請求することが原則であり、代理人による請求には利用できないなど一定の制限があります。
相続手続きにかかる負担は以前より軽減されていますが、それでも取得する戸籍の枚数が数十通になることもあり、調査には時間がかかる場合があります。
仕事や育児などで時間を確保することが難しい場合には、弁護士や司法書士などの専門家へ依頼することも一つの方法です。
遺言書の確認と相続人調査が終わると、次はいよいよ「遺産には何が含まれているのか」を調査する段階へ進みます。
相続財産には、預貯金や不動産だけでなく、株式や生命保険、借金なども含まれるため、正確な財産調査が欠かせません。
③遺産(相続財産)を調査する
相続人が確定したら、次に行うのが相続財産(遺産)の調査です。
「遺産」と聞くと、預貯金や不動産などのプラスの財産を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、法律上の相続財産には、価値のある財産だけでなく、借金やローンなどのマイナスの財産も含まれます。
相続をするか放棄するかを判断するためにも、まずは「どのような財産があり、その価値はいくらなのか」をできる限り正確に把握することが重要です。
相続財産にはプラスの財産とマイナスの財産がある

相続財産には、次のようなものが含まれます。
- 土地・建物などの不動産
- 預貯金
- 現金
- 株式・投資信託などの有価証券
- 自動車
- 貴金属・美術品
- 生命保険金(契約内容や相続税上の扱いに注意が必要)
- 貸付金・売掛金などの債権
マイナスの財産
- 住宅ローン
- カードローン
- 消費者金融からの借入れ
- 未払いの税金
- 保証債務
- その他の借金
相続では、これらをまとめて引き継ぐことになります。
そのため、「預金があるから安心」と思っていても、多額の借金が見つかるケースもあります。逆に、「借金があると聞いていたが、実際には十分な資産があり、問題なく相続できた」というケースも少なくありません。
相続開始後3か月以内には、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを判断する必要があります。その判断を誤らないためにも、財産調査はできるだけ早く進めることが大切です。
不動産は「名寄帳」を取得して確認する
被相続人が不動産を所有していた場合は、まず名寄帳(なよせちょう)を取得して確認します。
名寄帳とは、固定資産税の課税対象となる土地や建物を、所有者ごとに一覧化した書類です。
例えば、「被相続人名義の土地や建物が市内にいくつあるのか」を確認する際に役立ちます。
名寄帳は、東京23区では都税事務所、それ以外の地域では市区町村役場で取得できます。
なお、名寄帳は取得した自治体内の不動産しか確認できません。複数の市区町村に不動産を所有している可能性がある場合は、それぞれの自治体で確認が必要になる点に注意しましょう。
預貯金は金融機関へ「全店照会」を行う
預貯金については、被相続人が利用していた金融機関を確認し、それぞれの金融機関へ残高証明書や取引履歴などを請求します。
どこの支店に口座があるか分からない場合には、金融機関に対して全店照会を行うことも可能です。
全店照会とは、その金融機関のすべての支店を対象に、被相続人名義の口座が存在するかを確認する手続きです。
相続人であれば、一定の書類を提出することで照会を依頼できます。
一方で、「どこの銀行を利用していたか」自体が分からないケースもあります。
その場合は、自宅に残されている通帳やキャッシュカード、郵便物、年金の振込先、公共料金の引き落とし口座などを手掛かりに、一つずつ確認していくことになります。
借金の有無も必ず確認する
相続では、プラスの財産だけでなく、借金などの負債についても調査しなければなりません。
住宅ローンやカードローン、消費者金融からの借入れなどがある場合、それらも原則として相続の対象となります。
借入状況は、JICC(日本信用情報機構)やCIC(株式会社シー・アイ・シー)などの信用情報機関へ情報開示を請求することで確認できる場合があります。
ただし、個人間の借金や、一部の債務については把握できないこともあります。そのため、契約書や督促状、通帳の入出金履歴なども確認しながら、総合的に調査することが重要です。
特に、借金が資産を上回る可能性がある場合には、相続放棄や限定承認を検討することもあります。その判断材料となるため、負債の調査も慎重に進めましょう。
財産調査は相続人自身で行うのが原則
「家庭裁判所が財産を調べてくれるのでは?」と思われる方もいらっしゃいますが、家庭裁判所が相続人に代わって、すべての相続財産を調査してくれるわけではありません。
相続財産の調査は、原則として相続人自身が行う必要があります。
しかし、不動産や預貯金、株式、借金などを一つずつ調べるには、多くの時間と労力がかかります。また、財産を見落としてしまうと、その後の遺産分割や相続放棄の判断にも影響する可能性があります。
そのため、財産の種類が多い場合や、調査が難しい場合には、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家へ相談することも有効な選択肢です。
遺産の内容が明らかになれば、次はいよいよ「相続するのか、それとも相続放棄をするのか」という重要な判断を行うことになります。
ここまでが相続手続きの「準備段階」
ここまで、相続手続きの前半として、
- 遺言書を探す
- 相続人を調査する
- 遺産(相続財産)を調査する
という3つの重要なステップについて解説しました。
一見すると「調べるだけ」の作業に思えるかもしれませんが、この準備を十分に行わないまま次の手続きへ進めてしまうと、後から相続人が判明したり、遺言書が見つかったり、借金が発覚したりして、相続手続きをやり直さなければならないケースもあります。
相続は一つひとつの手続きを正しい順番で進めることが何よりも重要です。
特に、遺産調査が終わると「相続するのか、それとも相続放棄するのか」という大きな判断を迫られます。
この判断には3か月という期限があるため、十分な調査を行ったうえで慎重に進める必要があります。
次はいよいよ「相続するかどうか」の判断へ
後編では、今回調査した内容をもとに、実際の相続手続きをどのように進めるのかを詳しく解説します。
- 相続を引き継ぐ「単純承認」とは?
- 借金が心配な場合に利用できる「限定承認」
- 相続放棄をする場合の期限と注意点
- みなし単純承認とは何か
- 遺産分割協議の進め方
- 寄与分・特別受益とは何か
- 相続開始から10年経過した場合の注意点(民法904条の3)
- 相続税の申告期限と基礎控除
- 未分割申告とは何か
- 相続登記の義務化
- 数次相続とは何か
これらは、実際の相続手続きで多くの方が悩まれるポイントです。
「相続放棄できると思っていたのにできなかった」
「遺産分割協議がまとまらず相続税の期限が迫ってしまった」
「相続登記を放置していたら手続きが複雑になってしまった」
といったトラブルを防ぐためにも、ぜひ後編もあわせてご覧ください。
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【相続の学校】相続は何から始める?弁護士がゼロから解説(後編)