「本記事(前編)では、実際の法律相談の現場でよくある『生前は仲が良かった家族ほど揉めてしまうケース』を具体的に挙げながら、なぜ相続が『争族』に発展してしまうのか、その根本的な原因を弁護士が詳しく解説します。」
「遺言書なんてまだ必要ない」「うちは家族仲が良いから大丈夫」
そう考えている方は少なくありません。
しかし、実際の相続相談では、家族仲が良かったご家庭ほど相続をきっかけに関係が悪化してしまうケースもあります。
この記事では、遺言書が必要とされる理由や、相続トラブルを防ぐためのポイントについて、弁護士の視点から分かりやすく解説します。
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動画では、実際の相続相談でよくある事例をもとに、遺言書の重要性や、家族が安心して相続を迎えるための準備について弁護士が分かりやすく解説しています。
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目次
相続はなぜ「争族」になってしまうのか

相続というと、「財産が多い家庭だけで起こる問題」「特別な事情がある家庭だけが揉めるもの」と考える方も少なくありません。
しかし、実際には相続トラブルは財産の大小に関係なく発生しています。
例えば、
- 自宅不動産と預貯金が少しある
- 相続人が子ども2人や3人程度
- 生前は家族関係が良好だった
という、ごく一般的な家庭でも、相続をきっかけに家族関係が悪化するケースは数多くあります。
その理由は、相続が単なる「財産を分ける手続き」ではないからです。
相続では、
- 誰がどの財産を取得するのか
- 親の介護や生活への貢献をどのように考えるのか
- 生前贈与を受けた人をどのように扱うのか
- 家族への想いや過去の出来事をどのように評価するのか
といった問題が、一度に表面化します。
その結果、これまで表に出ていなかった不満や認識の違いが、大きな対立につながることがあります。
相続は「家族だから話し合えば解決できる」と思われがちですが、実際には大きなお金が動くため、感情的な対立が生じやすい分野です。
そのため、相続は昔から「争う」という字に「族」を合わせて「争族」と表現されることがあります。
「うちは家族仲が良いから遺言書はいらない」という考えの危険性

相続相談の現場では、
「うちは兄弟仲が良いから大丈夫です」
「家族で揉めることなんてありません」
という話をよく聞きます。
もちろん、普段から家族関係が良好であることは非常に大切です。
しかし、相続が発生すると、それまで仲が良かった家族でも状況が変わることがあります。
例えば、
- 長男が実家を相続したが、他の兄弟が不公平だと感じる
- 親の介護をしていた人と、していない人で考え方が違う
- 生前に援助を受けていた相続人への不満が出る
などです。
相続人それぞれに「自分なりの正当な理由」があるため、話し合いが簡単にはまとまらないことがあります。
特に問題なのは、亡くなった方本人がいないため、最終的な判断をしてくれる人がいないという点です。
「父は本当はこう思っていた」
「母はこうしてほしかったはず」
というように、それぞれが自分に都合の良い解釈をしてしまうこともあります。
だからこそ、生前に本人の意思を明確に残しておく遺言書が重要になります。
遺言書がある場合と、ない場合の決定的な違い

遺言書があるかどうかによって、相続手続きの進め方は大きく変わります。
遺言書がある場合
遺言書が存在する場合、原則として遺言書に記載された内容に従って遺産が分配されます。
つまり、
- 誰が財産を取得するのか
- どの財産を誰が引き継ぐのか
- どのような割合で分けるのか
について、亡くなった方自身の意思が反映されます。
例えば、
- 「自宅不動産は妻へ」
- 「預貯金は子どもへ」
- 「長年お世話になった人へ財産を残す」
といった指定が可能です。
もちろん、遺言書があれば必ずその内容通りになるわけではありません。
例えば、
- 遺言書自体が無効になった場合
- 相続人全員が合意して別の分け方をする場合
には、遺言書とは異なる形で遺産が分配されることもあります。
しかし、基本的には遺言書の内容が相続の基準になります。
遺言書がない場合
一方で、遺言書がない場合、相続人全員で「遺産分割協議」を行う必要があります。
遺産分割協議とは、相続人全員で、
- 誰が
- どの財産を
- どの割合で
取得するのかを話し合って決める手続きです。
ここで重要なのは、相続人全員の合意が必要になるということです。
一人でも納得しない相続人がいる場合、預貯金の解約や不動産の名義変更などの手続きを進めることができません。
話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所で、
- 遺産分割調停
- 遺産分割審判
という手続きを行うことになります。
調停や審判になると、解決までに数年かかるケースもあり、精神的・経済的な負担も大きくなります。
このような状態になってしまうと、単なる財産分けではなく、家族関係そのものが壊れてしまう「争族」になってしまいます。
日本で遺言書が作られにくい理由

日本では、欧米などと比較すると遺言書を作成する人の割合は低いと言われています。
特に、
「まだ元気だから必要ない」
「家族が何とかしてくれる」
と考え、準備を先延ばしにしてしまう方も少なくありません。
しかし、遺言書は亡くなる直前に作るものではありません。
元気で判断能力が十分にある時期だからこそ、自分の意思を正確に残すことができます。
では、なぜ日本では遺言書が十分に普及していないのでしょうか。
家督制度の名残
日本では、かつて「家督制度」という制度がありました。
家督制度では、家の財産を長男が引き継ぐという考え方が一般的でした。
現在では制度として廃止されていますが、
- 家の財産は長男が継ぐもの
- 特別に決めなくても何とかなる
という価値観が残っている部分があります。
特に高齢世代では、
「財産は長男に渡すつもりだから、わざわざ遺言を書く必要はない」
と考える方もいます。
しかし、現在の法律では、長男だから優先的に相続できるという仕組みではありません。
相続では、配偶者や子どもなどの法定相続人が、それぞれ法律上の権利を持っています。
そのため、自分の希望通りに財産を残したい場合には、遺言書によって明確にしておく必要があります。
遺言に対する知識不足
遺言書が普及していない大きな理由の一つが、遺言に関する知識不足です。
実際には、
- 遺言書をどのように作ればいいのか分からない
- そもそも遺言書を作る必要性を知らない
- 作成するとどのようなメリットがあるのか分からない
という方は多くいらっしゃいます。
また、
「遺言書を書くと死を意識してしまう」
「まだ元気だから必要ない」
と考えてしまい、作成を後回しにする方も少なくありません。
しかし、遺言書は「死ぬ準備」ではなく、「自分の意思を家族に伝える準備」です。
元気なうちに、自分の財産を誰にどのように残したいのかを整理しておくことで、残された家族の負担を大きく減らすことができます。
はっきり決めない文化
日本では、家族間であえて細かいことを決めない文化があります。
例えば、
「家族なのだから話し合えば分かる」
「今決めなくても、その時になれば何とかなる」
と考える方も多いでしょう。
もちろん、家族同士の信頼関係は大切です。
しかし、相続では、この「曖昧さ」が大きな問題につながることがあります。
亡くなった後では、本人に確認することができません。
そのため、
- 父は本当は誰に財産を渡したかったのか
- 母はどのように考えていたのか
を巡って、相続人同士で意見が対立してしまうことがあります。
相続においては、決めないことも一つの選択です。
しかし、その場合は法律で定められたルールに従って財産を分けることになります。
自分の希望がある場合には、遺言書という形で明確に残しておくことが重要です。
遺言書を作る最大のメリット①|誰に何を残すかを自分で決められる

遺言書を作成する最大のメリットの一つは、「自分自身の意思で財産の分け方を決められる」という点です。
遺言書がない場合、基本的には民法で定められた「法定相続人」と「法定相続分」に基づいて相続が行われます。
法定相続人とは、法律によって相続する権利を持つ人のことです。
一般的には、
- 配偶者
- 子ども
- 親などの直系尊属
- 兄弟姉妹
が該当します。
ただし、法定相続人であっても、必ず本人が望んだ通りに財産を取得できるとは限りません。
例えば、
- 長年介護をしてくれた長女に多く財産を残したい
- 配偶者の生活を守るため、自宅を妻に残したい
- お世話になった孫にも財産を渡したい
と考えていても、遺言書がなければ、その希望を法律上実現することはできません。
特に注意が必要なのが、法定相続人ではない人に財産を残したい場合です。
例えば、
- 事実婚のパートナー
- 子どもの配偶者
- 孫
- 長年お世話になった友人
- 慈善団体など
に財産を渡したい場合、遺言書による指定が必要になります。
つまり、遺言書とは「自分の財産を最後にどのように活用するのかを決める手段」なのです。
遺言書を作らないことは「法律に任せる」という選択

「遺言書を作らない」という選択をすることも、もちろん可能です。
しかし、それは何も決めていないということではありません。
遺言書を作らない場合、基本的には民法のルールに従って財産が分配されることになります。
つまり、
「法律で決められた割合で相続してもらう」
という意思表示をしているのと同じ意味になります。
また、法定相続人がいない方の場合、遺言書を残さなければ、最終的に財産は国庫に帰属することになります。
もちろん、それを希望するのであれば問題ありません。
しかし、
- 特定の人に財産を残したい
- 自分の意思で財産の行き先を決めたい
- 家族への想いを形に残したい
という場合には、遺言書を作成しておくことが必要です。
遺言書を作る最大のメリット②|相続トラブルを未然に防げる

遺言書の大きな役割は、単に財産の分け方を決めることだけではありません。
もう一つ重要なのが、相続人同士の争いを防ぐことです。
実際の相続現場では、生前は非常に仲が良かった家族が、相続をきっかけに関係が悪化するケースがあります。
例えば、
- 「兄だけ親から援助を受けていたのだから不公平だ」
- 「私は親の介護をしてきたから多くもらうべきだ」
- 「長男だから実家を取得するのは当然だ」
など、それぞれの立場から主張が出てきます。
どの主張にも、それぞれ本人なりの理由があります。
しかし、相続では全員が納得できる答えを見つけることが難しく、話し合いが長期化することがあります。
場合によっては、家庭裁判所での調停や審判に進み、数年間解決しないケースもあります。
遺言書があれば、亡くなった本人の意思を基準として話し合いを進めることができます。
もちろん、遺言書があればすべての争いを完全になくせるわけではありません。
しかし、相続人同士が一から話し合って決める負担を大きく減らすことができます。
遺言書を作らないという選択のリスク
遺言書を作らない場合、残された家族は「故人は何を望んでいたのか」を確認することができません。
その結果、相続人同士で話し合いを行い、全員が納得できる答えを探す必要があります。
家族関係が良好であれば、問題なく進むこともあります。
しかし、相続では普段は表面化していなかった不満や価値観の違いが出ることがあります。
遺言書は、財産を奪い合うためのものではありません。
残された家族が困らないように、亡くなった方が最後にできる家族への配慮です。
「自分が亡くなった後、家族にはできるだけ負担をかけたくない」
そう考える方にとって、遺言書は非常に大切な準備になります。
遺言書は「争族」を防ぐための第一歩
相続トラブルは、財産が多い家庭だけで起こるものではありません。
むしろ、一般的な家庭でも、
- 財産の分け方
- 家族それぞれの考え方
- 過去の出来事への認識
の違いから、争族に発展することがあります。
遺言書を作成しておけば、
- 誰に何を残すのかを自分で決められる
- 相続人同士の話し合いの負担を減らせる
- 家族間の不要な争いを防ぐことができる
という大きなメリットがあります。
遺言書は「財産を分けるための書類」ではなく、「家族の未来を守るための準備」と考えることが大切です。
後編では、さらに具体的に、
- 遺言書を作るメリット・デメリット
- 遺言書を作成すべき人の特徴
- 遺言事項と付言事項の違い
- 自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
- 争族を防ぐための具体的なポイント
について、弁護士の視点から詳しく解説します。
▼続きはこちら▼
遺言が必要な理由を、相続弁護士が解説します(後編)